脂漏性皮膚炎とは
脂漏性皮膚炎とは、皮脂分泌が多い部位(脂漏部位)に発生する湿疹の一つで、「脂漏性湿疹」ともいわれます。頭部や顔面、腋窩(わきの下)などに好発し、紅斑(赤み)、鱗屑(角層が剥がれてカサカサした状態:頭皮では「フケ」と呼ばれる)が特徴で、酷くなるとかさぶた(痂皮;かひ)のようなものができます。かゆみはほとんどなく、あったとしても軽度であることが多いです。
脂漏性皮膚炎には、乳児期に発症する「乳児型」と思春期以降に発症する「成人型」があります。
- ※ 写真提供:兵庫医科大学皮膚科 夏秋 優 先生
脂漏性皮膚炎の原因
明確な原因は不明ですが、皮膚に常在するマラセチア菌が発症に関わっているといわれています。マラセチア菌は皮脂を栄養源としており、特に皮脂分泌が多い部位で活発に増殖します。ここでは、脂漏性皮膚炎を引き起こすと考えられている原因について、主なものを示します。
- マラセチア菌の増殖
- 皮脂中の中性脂肪(トリグリセリド)がマラセチア菌によって分解され、分解産物である遊離脂肪酸が皮膚を刺激することが原因と考えられています。また、マラセチア菌の増殖自体が皮膚の炎症を起こすとも考えられています。
- 皮脂の過剰分泌
- 新生児は胎児期に母親から受け取った性ホルモンの影響で一時的に皮脂分泌量が多く、この時期に乳児型の脂漏性皮膚炎(乳児脂漏性皮膚炎)が起こりやすいです。成人型の脂漏性皮膚炎は、思春期以降の男性によくみられますが、これは皮脂分泌を促進する男性ホルモンの影響と考えられます。
- 外部環境
- ストレス・睡眠不足・生活習慣の乱れなどが皮脂分泌に影響し、症状を悪化させることがあります。
また、何らかの原因で皮脂の成分・分泌が変化したり、発汗、ビタミンB2、B6などのビタミン代謝が変化したりすることも発症に関わっているといわれています。
脂漏性皮膚炎の症状
頭部や顔面、腋窩(わきの下)など皮脂分泌が多い部位に、赤みと鱗屑がみられます。かゆみはほとんどなく、あったとしても軽度であることが多いですが、症状が進行すると、湿疹ができ、かゆみが強くなる場合もあります。
脂漏性皮膚炎には、乳児型と成人型の2つのタイプがあります。
- 乳児型
- 新生児は胎児期に母親から受け取った性ホルモンの影響で一時的に皮脂分泌量が多く、乳児型の脂漏性皮膚炎(乳児脂漏性皮膚炎)では、生後2週頃から頭部や眉毛部、額に黄色調の痂皮ができ、鱗屑を伴った紅斑がみられます。生後2~3ヵ月過ぎた頃には母親から受け取った性ホルモンの影響がなくなり、皮脂分泌量が少なくなるに伴って、多くの場合は自然治癒します。
乳児脂漏性皮膚炎についての詳細は「乳児に起こる湿疹(乳児湿疹) 原因・症状・治療法 」をご覧ください
- 成人型
- 思春期以降に発症し、慢性的に繰り返す傾向があります。特に、中年以降に発症した場合は慢性化しやすいといわれています。頭部に好発し、鱗屑を伴った紅斑がみられます。頭部の鱗屑は剥がれ落ち(落屑)、脂性のフケ症として自覚されることが多いようです。
脂漏性皮膚炎の対処法・治療法、予防法
脂漏性皮膚炎の対処法・治療法
まず、洗顔や洗髪などで余分な皮脂を取り除くことが大切です。洗浄料やシャンプーをよく泡立て、優しく洗います。痂皮が付着している場合は、無理に剥がそうとせず、水で充分濡らしたりベビーオイルやワセリンを塗布したりして、痂皮を柔らかくしてから洗い落とすようにして取り除きましょう。洗浄料やシャンプーが残っているとかぶれの原因になるので、洗い残しがないように、しっかりすすぐことも大切です。
赤みが強く、かゆみや湿疹がある場合には、炎症を抑えるためにステロイド外用薬が使われますが、ステロイド成分は菌の増殖を助長する場合があるので、注意が必要です。
成人型では、マラセチア菌の増殖が悪化因子である場合が多く、マラセチア菌に対する抗真菌成分が配合された外用薬が使用されます。また、抗真菌成分が配合されたシャンプーも効果的です。
軽症の場合は、皮脂を取り除き清潔にすることや、市販の外用薬などで対処できます。ただし、症状が酷い場合や繰り返す場合、長期間治まらない場合は、早めに皮膚科を受診し、適切な治療を行うことが大切です。
脂漏性皮膚炎の予防法
- 脂漏部位を清潔に保つ
- 頭部や顔などの脂漏部位に過剰に分泌される皮脂を取り除き、皮膚を清潔に保つことが大切です。ただし、入浴の際などにゴシゴシ擦ると皮膚バリア機能に重要な角層を傷つけてしまうので、優しく丁寧に洗いましょう。
- バランスの良い食生活
- 脂質の多い食事を減らしましょう。また、脂漏性皮膚炎の方ではビタミンB2、B6などのビタミンが不足しているといわれているので、ビタミンB2やB6を多く含む食品をバランス良く摂りましょう。
- ストレスをためない規則正しい生活
- 精神的なストレスや過労によるホルモンバランスの乱れは皮脂分泌の増加を招くので、睡眠を充分に取りストレスをためないよう規則正しい生活を心がけましょう。
まとめ
脂漏性皮膚炎は、皮脂分泌が多い部位(脂漏部位)に発生する湿疹の一つで、頭部や顔面、腋窩(わきの下)などに好発します。紅斑(赤み)、鱗屑(角層が剥がれてカサカサした状態)が特徴で、酷くなるとかさぶた(痂皮)のようなものができます。乳児期に発症する乳児型と思春期以降に発症する成人型があります。
明確な原因は不明ですが、皮膚に常在するマラセチア菌が発症に関わっているといわれています。
発症した場合は、ステロイド外用薬やマラセチア菌に対する抗真菌外用薬を使用します。また、患部の余分な皮脂を取り除くことも重要です。
ただし、症状が酷い場合や繰り返す場合、長期間治まらない場合は、早めに皮膚科を受診し対応しましょう。
監修
小西 真絢(こにし まあや)
巣鴨千石皮ふ科 院長
東京都出身。杏林大学医学部卒業後、東京医科歯科大学皮膚科へ入局。2017年巣鴨千石皮ふ科開院。2020年初診からのオンライン診療開始、2021年日本皮膚科学会の乾癬分子標的薬使用施設として承認。アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、多汗症の治療に注力。