パッチテストによる市販外用薬の皮ふ安全性の予測方法
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研究の背景
薬局・ドラッグストア等では非常に多くの外用薬が市販されています。これら外用薬の安全性は、どのように確認されているかご存知でしょうか?皮ふへの刺激性は個人差が大きく、体調や食事などに影響を受けることもあります。そのため、実際に塗った時の安全性を予測するのは難しいです。 この安全性予測は人で評価されることが重要で、本来は実使用を想定して毎日塗り続ける試験(連続塗布試験)※1が望ましいです。しかし、数週間という長期にわたる試験になるため、被験者(試験の対象となる人)の負担が大きくなってしまいます。 そこで一般的には、簡便かつ短期間に皮ふ安全性を予測する方法として、ヒトクローズドパッチテスト(PT)※2が用いられています。しかし、個人差がある人の試験で毎回同じ結果が得られるのでしょうか?また、連続塗布試験とPTの予測結果に相関性があるかも不明だったため、これらを明らかにする研究を行いました。
※1 連続塗布試験とは
毎日、同じ場所に外用薬を塗ることを想定して、腕などに試験品を連続で塗ってもらう試験方法です。塗ったところに皮ふ刺激症状(赤み、腫れ、痒みやヒリヒリなど)が起こらないか被験者に観察してもらい、皮ふ安全性を確認します。
※2 クローズドパッチテスト(PT)とは
本来は、アレルギー性のかぶれ(接触皮ふ炎)の原因物質を見つけ、病因除去による根本治療を行うための診断方法です(貼付時間は48時間)。
このPTを応用して、外用薬を塗った時の皮ふ刺激反応(赤みや腫れなど)を評価するのが一般的になっています。
研究の概要
①PTの再現性について
様々な背景をもつ被験者でPTを実施した場合でも、PT結果が同様になるのかを確認するため、2つの異なる被験者集団に対し、同じ試験品でPTを行いました。
②連続塗布試験の再現性について
PT同様に被験者集団を変えた場合でも、連続塗布試験結果は同様になるのかを確認するため、2つの異なる被験者集団に対し、同じ試験品で連続塗布試験を行いました。試験品は、PT結果(皮ふ刺激の強弱)が異なるものを使用しました。
③PTと連続塗布試験の関係性について
①②の結果を踏まえ、PTと連続塗布試験の関係性を解析し、PTが皮ふ安全性の予測手段として適しているのかを確認しました。
①PTの再現性
被験者は様々な背景をもつため、被験者集団が変わった場合でもPT結果に影響がない方法であるかを確認しました。併せて被験者の負担を減らすため貼付時間の検討も行いました。
- 2集団の背中に、市販外用薬を閉塞して24時間もしくは48時間貼付
- 試験品を取り除いた後、2時点で皮ふ刺激反応を観察してスコア付け(表2参考:0~6点で判定)
表1:PT試験
試験1 | 試験2 | |
---|---|---|
被験者の数 | 29人 | 30人 |
試験品 | 市販外用薬55品 | |
試験部位 | 背中 | |
貼付時間 | 24時間 | 48時間 |
判定時間 | (試験品除去後) 2時間および24時間 |
表2:皮ふ判定基準
スコア | 皮ふ反応 |
---|---|
0 | 紅斑反応の全く認められないもの |
1 | 紅斑色調が薄く、わずかに認められるもの |
2 | 紅斑色調がスコア1より濃いもの (紅斑面積が試験品貼付範囲の50%以上) |
3 | 紅斑色調が濃くはっきりしたもの |
4 | 紅斑とともに、丘疹・浮腫を伴ったもの |
5 | 小水疱を伴ったもの |
6 | 大水疱、壊死など腐食反応と考えらえるもの |
グラフ1:PT試験品除去後2時間のデータ
グラフ2:PT試験品除去後24時間のデータ
2集団の皮ふ刺激スコアは、判定2時点で同程度となり、PTは再現性のある試験方法と考えられた。
また、試験品を貼る時間の違いによって、皮ふ刺激反応に差がなかった。
②連続塗布試験の再現性について
PT同様に、被験者集団が変わった場合でも連続塗布試験結果に影響がない方法であるかを確認しました。
また、PTは簡便に短期間で確認できる試験方法ではありますが、試験品を閉塞して貼るため、実際の使い方(開放的に塗る)とは異なります。そこで、実使用時を想定した連続塗布試験を実施し、発生する皮ふ症状を確認しました。なお、試験品はPTスコアが異なる6検体を用いました。
皮ふ刺激スコア:
皮ふ反応(乾燥、赤み、ぶつぶつ、腫れ)、皮ふ感覚(ヒリヒリ、かゆみ、ほてり)
3:とてもある 2:ある 1:ややある 0:ない
発症頻度:
スコアが付いた症状が発生した人の割合
表3:連続塗布試験
試験3 | 試験4 | |
---|---|---|
被験者の数 | 22人 | 30人 |
試験品 | PTスコアの異なる市販外用薬6品 | |
試験部位 | 左右の腕の内側 | |
塗布回数 | 1日2回 | |
塗布期間 | 3週間 |
グラフ3:連続塗布試験の発症頻度
連続塗布試験の結果は2集団で同様であり、連続塗布試験の発症頻度は、PTスコアが高いものは高い頻度、PTスコアが低いものは低い頻度となった。
③PTと連続塗布試験の関係性
PTと連続塗布試験との関係性については、連続塗布試験を実施した試験品1~6と、それぞれのPT皮ふ刺激スコアとの相関性を確認しました。
グラフ4:PTと連続塗布試験の関係性
6試験品のPT皮ふ刺激スコアと連続塗布試験の発症頻度には、正の相関関係が認められた(※相関関係は、PTの試験品除去2時間後スコアよりも24時間後でより高かった)。
よって、PTにより実使用を想定した連続塗布試験結果を予測できると考えられる。
研究のまとめ
- PTと、連続塗布試験は再現性のある試験方法であった。
- PTの貼付時間については、24時間と48時間で皮ふ刺激反応にほとんど差がなかったことから、被験者の負担を考え、24時間貼付による評価で問題ないと考えた。
- 連続塗布試験結果とPT皮ふ刺激スコアとの関係性から、実使用を想定した連続塗布試験同様に、PTは皮ふ安全性を予測する方法として有用であることが示された。
今後の展望
今回の研究により、PTは皮膚刺激性を予測する方法として有用であることが確認されました。私たちは外用薬メーカーとして製品の安全性をよりスピーディーに評価し、お客様が安心して使える製品を開発していきます。
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- 市販外用剤(成分)
- 皮ふ刺激反応(症状)
- クローズドパッチテスト連続塗布試験(方法)