虫刺され(虫刺症)によるアレルギー反応とは
虫に刺された時に起こる症状は、虫が注入した毒による障害と漠然と思われているかもしれません。確かに、ハチや毛虫、ムカデなどでは、毒素の化学的刺激による炎症が発症機序の一つです。実はさらに、もう一つ重要な機序があります。それが、アレルギー反応です。
アレルギー反応とは、身体に入ってくる異物を排除しようとする防御システムで、免疫反応と同じ生体反応です。身体を守るはずの防御システムが我々にとって有利に働く場合を「免疫」、不利に働く場合を「アレルギー」といいます。身体に入っても問題のない物質が排除対象である異物と認識されてしまうことでアレルギー反応が起こります。異物と認識された物質を「アレルゲン」や「抗原」と呼びます。
虫に刺された際のアレルギー反応は、皮膚に注入された虫の唾液腺物質や毒素を異物と認識したことで生じ、即時型と遅延型の2種類の炎症が起こります。即時型は刺された直後に、遅延型は1~2日後に症状が現れます。
ただし、このような症状の現れ方は刺された虫の種類によって異なります。また、同じ虫に刺された場合でも、年齢や刺された頻度によって症状は異なり、体質による個人差もあります。
虫刺されによるアレルギー反応の仕組み(機序)
虫刺されによるアレルギー反応は、虫に刺された際に皮膚に注入された唾液腺物質や毒素を異物(アレルゲン・抗原)と認識することから始まります。一度刺されただけでは異物とは認識されず、繰り返し刺されることで異物として認識されるようになります。異物と認識された後に、通常は遅延型アレルギー反応がまず現れるようになり、その後くり返し刺されることで即時型アレルギー反応も起こるようになりますが、例外もあります。刺された頻度と出現するアレルギー反応の関係を以下の表に示します。
身近にみられる蚊に刺された場合を例に、即時型アレルギー反応と遅延アレルギー反応の仕組みをまとめます。
即時型アレルギー反応の仕組みと症状
通常、即時型アレルギー反応は、刺されたところを中心とした皮膚局所に起こり、数十分~数時間以内で治まる場合が多いです。
しかし、虫の種類によっては重症化し、全身性のアレルギー症状が起こる場合があります。主な症状は、全身の蕁麻疹(じんましん)、まぶたや唇の腫れ(浮腫)、喉の腫れ・違和感、腹痛、嘔吐、めまい、立ちくらみなどです。特に重篤な場合は、短時間で意識障害や血圧低下、呼吸困難といった命に関わる状態になる場合(アナフィラキシーショック)もあります。アナフィラキシーショックの症状がみられたら、躊躇せず直ちに救急車を呼んでください。
遅延型アレルギー反応の仕組みと症状
通常、遅延型アレルギー反応は、刺された1~2日後に、刺されたところに局所的に起こります。炎症反応が強い場合は水疱ができる場合もあり、数日~1週間ほどで改善します。炎症が治まった後に痕残り(色素沈着)することもあります。
虫刺されによるアレルギーの対処法・治療法
虫刺されによるアレルギー反応の仕組みを知ることで適切な治療方法を選択しましょう。
即時型アレルギー反応はマスト細胞から放出されるヒスタミンが膨疹・赤み・かゆみの原因なので、抗ヒスタミン外用薬の使用が一般的です。
遅延型アレルギー反応は炎症細胞が浸潤し集まることで丘疹・赤み・かゆみが起こるので、炎症を抑えるステロイド外用薬を使用します。
刺されて直ぐ(即時型アレルギー反応)のタイミングであっても、遅延型アレルギー反応の出やすい方は早めに抗ヒスタミン成分とステロイド成分の配合された外用薬で対処することも効果的です。
虫刺されによるアレルギー症状の現れ方には、個人差や刺された虫による差があるので、症状に合わせて外用薬を使用してください。
ただし、ハチなどに刺された場合には、皮膚局所のアレルギー反応に留まらず、全身性のアレルギー反応が出る場合があります。
ハチに刺されたときの注意点(アナフィラキシーショック)
ハチに刺されたときの症状
人を刺すハチは、スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチなどです。
ハチに刺されると、身体の中にハチ毒に対する抗体が作られます。次に同じ種類のハチに刺された時は、人によってはアレルギー反応を起こし、アナフィラキシー症状を引き起こします。呼吸困難や血圧低下などのショック症状に至ると、最悪の場合には命に関わる危険もあります。特にアレルギー体質の方やハチに一度刺されたことがある方は充分注意が必要です。
ハチに刺された時の対処法・治療法
ハチに刺されたときは、次に示す手順で対処し、安静にします。まず20分程度、異常が起こらないか様子をみます。異常がみられたら、直ちに医療機関を受診してください。異常がみられなくても、念のため1時間程度は体調の変化に注意してください。
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1ミツバチの場合、ハチの針が残っている時は根元からそっと抜く。針をつかむと、針の中の毒素がさらに注入される場合があるので注意。
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2刺されたところの近くに、指輪や腕時計などを付けている場合は、腫れる前に外す。
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3抗ヒスタミン外用薬やステロイド外用薬を塗り、冷やす。
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4蕁麻疹、息苦しさ、冷や汗、めまい、血圧低下、しびれ、嘔吐などの症状が現れた場合は、一刻も早く救急車を呼ぶ。
なお、重症化が予測される方(過去にハチに刺されてアナフィラキシー症状を起こしたことのある方など)や山奥での作業などで直ぐに治療することが困難な方に対しては、万が一に備え、アドレナリン自己注射薬が処方されることもあるので、医療機関に相談するとよいでしょう。
まとめ
虫刺されによるアレルギー反応には、即時型と遅延型の2種類の炎症反応がみられます。多くの場合、皮膚局所にかゆみや赤みを伴う腫れ(膨疹あるいは丘疹)ができる症状ですが、ハチなどに刺された時は命に関わるアナフィラキシーショックに至る場合もあります。
症状が皮膚に限局する場合は適切な外用薬の使用が基本ですが、アナフィラキシーショックが疑われる場合は直ちに医療機関を受診してください。
監修
夏秋 優(なつあき まさる)
兵庫医科大学医学部皮膚科学教授
1984年兵庫医科大学卒業。1989~1991年カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学、1991年より兵庫医科大学皮膚科学講師、准教授などを経て2021年より現職。専門分野は衛生害虫による皮膚疾患、皮膚疾患の漢方治療。著書にDr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 改訂第2版(Gakken, 2023)、止々呂美哀歌(NRC出版, 2022)や医ダニ学図鑑(共著、北隆館, 2019)、日本の毒蛾(共著、むし社, 2024)などがある。