虫刺され(虫刺症)とは
虫刺されとは、医学的には「虫刺症(ちゅうししょう)」と呼ばれ、虫に「刺される」「咬まれる」「吸血される」といったことが原因で起こる皮膚炎です。一般的には、虫によって皮膚に注入された成分に対するアレルギー反応によって、皮膚にかゆみや赤み、腫れや湿疹などが生じます。
症状は、刺された虫の種類や個々の体質によって様々で、ひどい場合は、命に関わるショック症状を引き起こす場合もあるため、「たかが虫刺され」とあなどることはできません。
虫刺されの原因
虫刺されによるかゆみや痛みの原因は主に、皮膚に注入された虫由来の唾液腺物質や毒素に対するアレルギー反応により生じます。アレルギー反応には、虫刺されの直後に起こる即時型、1~2日後に起こる遅延型があり、体質や刺された頻度によってかなりの個人差があります。
即時型アレルギー反応
即時型アレルギー反応による虫刺されは、刺咬や吸血の直後からかゆみ、発赤、膨疹などが出現し、数時間で軽快します。これは、皮膚に注入された成分を異物と認識して生じるアレルギー反応で、炎症反応に重要な役割を持つマスト細胞からかゆみを起こす物質(主にヒスタミン)が放出されて症状が起こります。
遅延型アレルギー反応
遅延型アレルギー反応による虫刺されは、刺咬や吸血の1~2日後からかゆみ、発赤、丘疹などが出現します。軽快までには数日~1週間程度かかることが多いです。こちらは白血球などの炎症細胞が刺された箇所に集まって生じるアレルギー反応です。炎症細胞から、かゆみの原因成分や炎症を起こす様々な物質(サイトカインなど)が放出されて症状が起こります。
その他、アレルギー反応だけでなく、毒素そのものによる化学的刺激によって炎症反応が起こる場合もあります。
虫刺されを引き起こす虫の種類と虫刺されの症状
以下の表では、刺された時に症状を起こす主な虫の種類と症状をまとめました。症状や対処法についての詳細は、「虫・毒虫の種類と刺されたときの症状・対処法」の記事もあわせてご覧ください。
虫・毒虫など | 主な症状 |
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蚊 | 刺された直後からのかゆみ、赤み、腫れ、翌日以降のかゆみ、赤み。 |
イエダニ | 数日~10日間続く強いかゆみ、小さな赤い斑点。 |
ノミ | かゆみ、皮疹、大豆大の水ぶくれ(水疱)。 |
トコジラミ(ナンキンムシ) | 激しいかゆみや腫れ、赤い発疹。 |
毛虫・毒蛾 | 毒針毛:激しいかゆみを伴う小さなブツブツが多発。 毒棘:蕁麻疹のような膨疹、激しい痛み。 |
シラミ | 頭や陰部など、寄生された部位のかゆみ(感染初期は自覚症状がない)。 |
ブユ(ブヨ) | 刺された後の小さな出血点、半日後の強いかゆみと赤みと腫れ。 |
アブ | 瞬間的な激痛の後の強いかゆみ、赤み、腫れ。 |
マダニ | 自覚症状はなく、吸血により膨らんだマダニが皮膚に固着。 |
ハチ | 初めて刺されたときは痛みや発赤、腫れ。2回目以降はアレルギー反応による強い腫れ、場合によっては刺された直後に全身のかゆみ、息苦しさや命に関わるほどのショック症状。 |
アリ | チクッとした軽い痛み、赤み、腫れ。 |
ムカデ | 咬まれた瞬間の激痛、赤み、腫れ、2か所の咬み痕。場合によってはショック症状。 |
ハネカクシ | 体液が触れた箇所に、線状の赤い腫れ、水疱。ヒリヒリとした灼熱感や痛み。 |
カミキリモドキ | 体液が触れた箇所のヒリヒリした軽い痛み、赤み、水疱。 |
クラゲ | 触手に触れた箇所に線状の赤いミミズ腫れ、水疱。 |
虫刺され(虫刺症)対処法・治療法、予防法
虫刺されの対処法・治療法
まずは、早急に患部を冷やすことが大事です。軽症の場合は、かゆみ止めの市販の外用薬を使用しましょう。抗ヒスタミン成分が配合されているものや、赤みや腫れが強い場合はステロイド成分が配合された外用薬を使用します。また、メントールやカンフルなどの清涼感成分が配合されているとより効果的です。
症状が強い場合は、内服薬での治療が必要になる場合があるため、皮膚科を受診しましょう。その際は、原因となった虫を特定できると効果的に対処できます。可能であれば、虫の写真を撮影するなどして記録しておくのが望ましいです。
虫刺され痕(色素沈着)を残さないために
虫刺されで起こる症状には個人差があり、炎症反応が強いと治る過程で痕が残ってしまいます。また、かゆいからといって掻いてしまうと皮膚に傷を付けてしまい、症状を長引かせ、消えにくい痕として残ってしまう場合もあります。そのため、なるべく虫刺され痕を残さないように、炎症反応を早く抑え、症状を早く治すとともに、掻き壊しを防ぐため、かゆみを抑えることが必要です。特に、以下の3つを心がけましょう。
- 患部を冷やし、なるべく掻かない。
- 早めに炎症を抑えるために、より抗炎症効果の高いステロイド外用薬を塗る。
- 治るまで1日数回こまめに塗る。
虫刺されの予防法
屋内では、原因となる虫を遠ざけるために虫除け剤や燻煙剤などを使用します。気密性が低い場所や、一般的な殺虫剤に抵抗性を持つ虫の場合は、専用の殺虫剤を使用することも効果的です。イエダニやネコノミは、ネズミの巣や動物が発生源となるため、殺虫剤では除去できません。宿主の動物の駆除が必要です。また、ペットを介して虫を屋内に持ち込む場合があるため、ペットの虫対策も効果的です。
屋外では、スプレーをはじめとした虫除け剤の使用や肌の露出を避けることで予防できます。詳しい成分や選び方は、
「虫除け剤(忌避剤・虫除けスプレーなど)の基礎知識」の記事もあわせてご覧ください。
まとめ
虫刺されは、虫から皮膚に注入された成分に対するアレルギー反応で生じる皮膚炎です。かゆみや腫れ、赤み、発疹といった症状が見られることが多い傾向ですが、まれにショック症状を起こす可能性もあります。
軽症の場合は、市販の外用薬で対処できますが、症状がひどい時は皮膚科を受診しましょう。かゆいからといって掻いてしまうと症状を長引かせ、皮膚に虫刺されの痕が残りやすくなってしまうため、早めの対処が大切です。
虫刺されは、虫除け剤の使用や肌の露出を控えることで予防ができます。屋外で活動する際は、特に意識した対策を心がけましょう。
監修
夏秋 優(なつあき まさる)
兵庫医科大学医学部皮膚科学教授
1984年兵庫医科大学卒業。1989~1991年カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学、1991年より兵庫医科大学皮膚科学講師、准教授などを経て2021年より現職。専門分野は衛生害虫による皮膚疾患、皮膚疾患の漢方治療。著書にDr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 改訂第2版(Gakken, 2023)、止々呂美哀歌(NRC出版, 2022)や医ダニ学図鑑(共著、北隆館, 2019)、日本の毒蛾(共著、むし社, 2024)などがある。